202608.22
New ! 情勢レポート

ミャンマー新政権発足から4カ月 周辺国・ASEANが高位級往来を拡大

日本は従来方針を維持 直接対話の設計が課題に

 ミン・アウン・フライン大統領率いる新政権が2026年4月10日に発足して以降、ミャンマーをめぐる外交環境が動いている。タイ、中国、マレーシア、インドネシア、ラオスの外相級が相次いでネピドーを訪れ、7月にはベラルーシのルカシェンコ大統領が実務訪問した。ミン・アウン・フライン大統領自身もインド、中国、ラオス、タイ、ロシア、ベラルーシの6カ国を歴訪している。周辺国とASEANの一部では、政府間の直接対話を積み上げる段階に入った。日本は暴力の停止や被拘束者の解放を求める従来の方針を維持しており、新たな外交環境の中で何をどう協議するかという関与の設計が課題となっている。

相次ぐ外相級の訪問

 ミャンマー外務省によると、タイのシハサック・プアンケットケオ副首相兼外相は4月21日から22日までミャンマーを実務訪問した。22日にはミン・アウン・フライン大統領と会談し、国境の安定、法執行協力、越境犯罪、違法貿易などを協議した。新政権発足から12日後の閣僚級往来となった。

 続いて中国の王毅・共産党中央政治局委員兼外相が4月25日から26日まで公式訪問した。新華社通信によると、王氏は25日にミン・アウン・フライン大統領と会談し、国境地域の安定、貿易、国内和平プロセス、ASEANとの関係強化などを協議した。25日夜のティン・マウン・スエ外相との会談後には、ミャンマー宇宙庁(MSA)と中国国家航天局(CNSA)による宇宙空間の平和利用に関する覚書が交換された(国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー=GNLM)。

 マレーシアのモハマド・ハサン外相は5月19日にネピドーを訪れ、ティン・マウン・スエ外相と会談した。ミャンマーのASEAN復帰や二国間関係の強化が議題となった。バンコク・ポストの論説は、この訪問が国営紙で小さく扱われた点を指摘している。

 インドネシアのスギオノ外相は6月8日に公式訪問し、大統領および外相とそれぞれ会談した。和平、国民和解、ASEAN、経済、教育、保健、人道支援など幅広い分野が議題となった。ジャカルタ・ポストによると、インドネシア閣僚のミャンマー訪問は2021年以降で初めてである。

 ラオスのトンサワン・ポムヴィハーン副首相兼外相夫妻と代表団は、ティン・マウン・スエ外相の招請により6月11日から13日まで公式訪問した。ミャンマー外務省によると、12日午前に大統領府迎賓館で大統領を表敬し、外相会談では国境検問所の格上げと国境貿易の促進、友好協会を通じた人的交流、ASEAN内での協力継続などが協議された。

 首脳級の訪緬もあった。ベラルーシ国営ベルタ通信によると、ルカシェンコ大統領は7月にネピドーを実務訪問した。同大統領は2025年11月にも公式訪問しており、両国は2026年から2028年までの協力ロードマップの実施を進めている。

大統領の6カ国訪問

 ミャンマー側からの外交も同時に活発化した。ミン・アウン・フライン大統領は5月30日から6月3日までインドを公式訪問し、6月1日にモディ首相と会談した。就任後初の外国訪問で、国境地帯の安全保障、貿易決済、物流網、エネルギー、鉱業、農産加工などが議題となった。

 6月15日から19日には習近平国家主席の招請により中国を国賓訪問し、18件の合意・覚書に署名した。7月3日にはビエンチャンでトンルン国家主席と会談し、ASEAN加盟国への訪問としては就任後初となった。

 8月6日から7日にはタイを公式訪問し、アヌティン首相との会談で貿易、エネルギー、運輸網、国境の治安、オンライン詐欺対策など7分野にわたる共同声明をまとめた。さらに8月17日に出発したロシア公式訪問では、18日にプーチン大統領と会談し、製油所やLNGを含むエネルギー分野などで協力文書に署名した。

 ロシア訪問に続き、8月20日にはモスクワから特別機でミンスクに入り、ベラルーシを公式訪問した。ベルタ通信によると、20日にトゥルチン首相の表敬を受け、同日開かれたミャンマー・ベラルーシ経済フォーラムに出席したほか、ミンスクのミャンマー大使館開設式にも臨んだ。

 1日には独立宮殿でルカシェンコ大統領と少人数会合および拡大会合を行った。協議は2026~2028年の協力ロードマップに沿って、工業、農業、医薬品、科学、教育の各分野が中心となった。ルカシェンコ大統領は上海協力機構(SCO)やユーラシア経済連合(EAEU)といった枠組みでミャンマーを支持する考えを示し、ミン・アウン・フライン大統領は2027年に予定する補欠選挙へのベラルーシからの選挙監視要員の派遣を要請したと同通信は伝えた。

外国側からの訪問と合わせれば、一方向の外交攻勢というより、相互往来が成立しつつあるとみるのが実態に近い。

ASEANの現実的対

 もっとも、これをASEANによる新政権の全面的な承認とみるのは早い。ASEANは5項目合意を維持しており、加盟国の間でも関与の程度には差がある。

 ただ、各国が現実の政策として直接対話を増やしていることは事実である。マレーシア、インドネシアの外相がネピドーまで足を運び、タイ、ラオスが高位級往来を重ねている。ASEAN外交は「接触するか否か」ではなく、どの条件でどのレベルの接触を持つかを模索する段階に入ったとみられる。

 中国はさらに先行している。王毅外相の4月訪問に続き、6月には大統領の国賓訪問が実現した。政治、安全保障、国境、インフラ、経済を一体として扱う従来の関係を、新政権との間でも早期に再構築した形だ。

韓国も経済実務で交流

 韓国から外相級以上がネピドーを訪問したことは、8月20日までに確認されていない。一方で韓国は、ASEAN・韓国協力や在ミャンマー韓国大使館を通じた経済・実務面の交流を維持している。首脳・外相レベルの政治的なシグナルを抑えながら、経済関係とASEANの枠組みでは接触を維持する形である。

 日本も人道支援、ASEAN外交、在ミャンマー大使館などのチャンネルを維持している。ただ、日本はミャンマーとの間に、長年の和平支援、ODA、インフラ整備、企業進出、人材交流という厚い蓄積を持つ。それにもかかわらず、新政権発足後の高位級の直接外交では、ASEAN諸国に先行される状況が続いている。

変わらぬ日本の姿勢

 日本政府の基本姿勢は変わっていない。2026年1月30日の茂木敏充外相談話「ミャンマーにおける総選挙」は、被拘束者の解放や当事者間の真摯な対話といった政治的進展が選挙実施までに実現しなかったことを「遺憾」とし、民主的体制の回復に向けたプロセスを注視するとした。

 5月1日の外務報道官談話「アウン・サン・スー・チー氏等の処遇」でも、暴力の停止、被拘束者の解放、対話を引き続き求めている。7月22日にマニラで開かれた日・ASEAN外相会議でも、茂木外相はミャンマー情勢を議題の一つに挙げ、ASEANの5項目合意を支持する立場を示した。

 これ自体は一貫した外交姿勢である。問題は、その間にミャンマーを取り巻く外交環境そのものが変化していることにある。

笹川政府代表に役割

 その間隙を埋めているのが、笹川陽平・ミャンマー国民和解担当日本政府代表である。笹川氏は2013年2月に同職に任命され、政府と少数民族武装組織との和平プロセスに長年関わってきた。外務省も、日本政府が同氏と緊密に連携して和平を支援してきたことを公表資料に明記している。

 ミャンマー情報省などによると、笹川氏は8月10日午後、ネピドーの大統領公邸でミン・アウン・フライン大統領と会談した。国内和平プロセスへの支援継続、エーヤワディ管区レーミェッナ郡区の洪水被災地の復興、耐震建築の設計・施工に関する技術系大学への協力などを協議したとされる。

 この仕組みには日本外交にとって利点がある。外相や政府高官が新政権と直接会談すれば、それ自体が政策変更や政権への評価と受け取られる可能性がある。これに対し、政府代表という立場であれば、民間財団の機動性を保ちながら、政府、和平関係者、少数民族勢力とのチャンネルを維持できる。

 もっとも、この構造は日本政府が正式な政策判断を示さないまま現地との接触を維持できることも意味する。政府代表のチャンネルを残す意義は大きいが、それだけで国家間外交を代替できるわけではない。

日本企業への影響

 影響は外交にとどまらない。エネルギー、港湾、通信、宇宙、鉱物資源、インフラの分野で中国やロシアが案件形成を進め、ベラルーシも工業や農業、医薬品を軸に商談の場を設けている。タイは国境貿易とダウェイ経済特区をめぐる協議を再開した。

 ミャンマー経済が今後どの程度回復するかは不透明である。ただ、制度や技術標準、物流網、エネルギー供給網は、政治状況が完全に安定する前の段階から形成される。日本企業が将来的に再参入を検討する時点では、重要案件がすでに他国企業を中心に組み立てられている可能性もある。

こ れは大型投資の即時再開を求める議論ではない。政府間の政策対話が十分でなければ、日本企業が必要とする情報や交渉ルートまで細くなるという問題である。

問われる関与の設計

 日本にはミャンマーとの関係で、ASEAN諸国とは異なる蓄積がある。ティラワ経済特区、電力、都市交通、金融、人材育成、医療、農業、和平支援など、官民双方にわたる関係が長年積み重ねられてきた。

 必要なのは、従来の原則を放棄することではなく、原則を維持しながら新政権と何を協議するのかを定めることであろう。和平、人道支援、オンライン詐欺対策、在留邦人の安全、日本企業の活動環境、エネルギー、経済協力など、政治的評価とは切り離して協議できる分野は少なくない。

 2026年春以降、周辺国はネピドーとの直接対話を再開し、ミャンマー側もインド、中国、ASEAN、ロシア、ベラルーシへと外交を広げている。変化しつつある環境の中で、日本の国益とこれまで築いてきた関係をどう維持し、そのための直接対話をいつ、どの水準で再開するのか。日本外交の関与の設計が問われている。

(主任研究員 宮野弘之)

【出典】ミャンマー外務省発表、ミャンマー情報省(MOI/MNA)、グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー(GNLM)、エレブン・メディア・グループ、ワン・ニュース・ミャンマー、新華社通信、ロイター通信、ベルタ通信、バンコク・ポスト、ジャカルタ・ポスト、日本国外務省公表資料

【注】韓国からの外相級以上の訪問については、2026年8月20日時点で公表資料による確認ができていない。